青い空と、大きな大きな入道雲。

じりじりと揺らぐ風景と、気が遠くなるような蝉の声が無人の街に木霊する。

何処か壊れた世界に迷い込んだ錯覚しそうな空間に、シンジ達は立っていた。









―緊急警報、緊急警報をお知らせします―





―本日12時30分東海地方を中心とした関東地方全域に特別非常事態宣言が発令されました―





―住民の方は速やかに指定のシェルターへ避難して下さい―





―繰り返しお伝えします、住民の方は速やかに指定のシェルターへ避難して下さい―









遠くから響いてくるサイレンと共に、爆発音と衝撃波が辺りを揺るがした。






















新世紀エヴァンゲリオン〜生きる意味〜


第二話「異形襲来」






















先程まで動いていた電車も今は完全に停まっていて、ホームの行き先掲示板は『全線運転中止』に全て変わっていた。

街には誰一人いなく、全ての信号が方向に関係なく赤色の点灯に変わっている。

全ての店舗はシャッターを降ろし、路肩には車が放置されている。

そんな中、シンジ達三人は数少ない公衆電話の前に立っていた。


「電話もダメかぁ……電車も止まっちゃったし、こんな時に待ち合わせなんてついてないね」


公衆電話の受話器を戻すと、わざとらしくため息を吐くシンジ。

第三東京市まで電車で行こうと思っていたのだが、特別非常事態宣言とやらで止まってしまい、立ち往生となってしまった。

実際は走っていく方が速いのだが、面倒くさいという一言でそれも止めていた。

シェルターに行こう、という選択肢は無いらしい。


「またそんな嘘つくなよ、この気配を感じてんだろ?

 その場にいるだけで死のイメージをしてしまうほどの圧倒的な威圧感。

 まるで自分の命を握られているような感覚に陥ってしまうほどの殺気。

 異形以外に何がいるってんだよ」



シュパアアアアア



頭の上を何機も戦闘機が飛んで行く。

戦闘機の飛んで行く先を目で追っていくと巨大な物体がゆっくりと此方に向かって歩いてくる。

戦闘機から発射される巡航ミサイルをもろともせず、次々と光のパイルで撃ち落していく。


「大型の異形なんて久しぶりに見たぜ」


「タイプ、サキエルだね」



ズドオオオオオオン



肌がジリジリと火傷しそうな爆風が、戦闘機の落ちた地点を中心に散る。

戦闘機の破片や高熱の風が迫ってくるにも関わらず、シンジ達に焦りの色は全く見えない。

シンジ達に迫る破片と爆風は、合間をすり抜けるかのように避けていく。

それが止むと、薄く輝く光の壁がシンジ達の周りから消える。


「図体だけのレベルか………」


シンヤはヤレヤレと溜め息を吐く。

少しは期待してしたらしく、顔を顰めていた。


「しかも[レベル2]

 "心壁"が使えるだけの能無し……それも『亜種』の部類に入るね」


シンジも実に残念そうだ。


「まぁ、ここは天界の門番、僕の父さん達の実力を見せてもらおう」


「そうだな、それにそろそろ本気腰で戦う気になったらしい」


シンヤはそういうと遥か彼方の上空を睨む。

其処には先ほどの戦闘機とは違い、まるで空に絵を描くように、不規則に動き回っている飛行機の姿が辛うじて確認できる。

光輝く線が空に描かれていく。

異形、サキエルを中心に複雑な幾何学模様が書かれていくさまは、場違いな幻想を具現化していくようだ。


「天空魔方陣、それにあの模様からすると恐らくは……」


「"火力増幅魔方陣"

 天界の門番達はここら一帯を焼き払うつもりでしょ。

 それにしても、僕達が此処にいるにも関わらず発動させるなんて、喧嘩売ってるのかいないのか………」


「完成まで後三分、その後N2か何かで殺すといった所か。

 まぁ『光皇』『闇皇』と知っているからこそ、なんだろうけど……」


そうじゃなければ此処に呼ばないだろうし、とシンヤは手紙をポケットの中から無造作に取り出す。


「俺の方には迎えに来るとは書いてないしな……さて、どうする?」


「う〜ん、あいつを殺すと天界の門番達の面子は丸つぶれ。

 その後いちゃもんつけてきて、終いには戦闘機の損害賠償払えとか言われそう」


そう言いながらシンジ手紙と同封されていた写真を取り出す。

写真には、胸元を強調するポーズをした藍色の髪を長く伸ばした美人の女性が写っている。

その写真には、『私が迎えに行くから待っててネ!! by葛城ミサト』とも書き込まれていた。


「……『待っててネ!!』と書かれてもね」


今まさに自分達のいる一帯が焼き払われようとしているのにも関わらず、待ってる奴はいないだろう。

しかも、時間を遅刻している状態なら尚更だ。


「何時まで待っとけばいいんだか………」


自分達なら可能だとでも思っているのだろう、とシンジは勝手に他人の思考を予測する。

しかし、シンジにも予測出来ない事態が起こっているとは夢にも思っていなかった。

その答えは数分後知る事になる。






















―――――時は2日ほど遡る―――――



巨大なモニターには、第三新東京市を中心に立体的な地図が映し出されていた。

第一発令所と言われる場所である。

現在は敵がいない状態なので緊迫と緊張の渦に包まれる事無く、安堵とした雰囲気が辺りを包んでいた。

其処にはモニターを見上げながら、手に持っていたコーヒーを啜るミサトの姿もある。


「そういえば、もうすぐよね?」


「何の事?」


全然分かりません先生、と言わんばかりの口調で、話しかけてきた自分の親友に適当に相槌する。


「―――あなた、忘れたの?」


こめかみに青筋を立たせて、指を動かしていたコンソールを止めるミサトの親友、赤木リツコ。


「え? あーう〜……あ、そうそう!!

 そういえば新たなチルドレンが来るのよね!?」


必死に弁解の言葉を考えるために、いつもはあまり使わない脳をフル活動させた。

頭の片隅に追いやられていたチルドレンの情報を取り出そうと試みる。

が、久々のフル活動には耐え切れなかったらしく、そこから先の情報が一向に出てこなかった。

そんなミサトの脳内活動を手に取るようにわかるリツコはキツイ一言を放つ。


「・・・・・・忘れてたわね」


何時もと変わらない口調のリツコ。

しかし、ミサトにとっては絶対零度をも超えるかのような冷たい口調に聞こえた。


「作戦部長さんがこんなんじゃネルフは終わりね。

 はぁ、まだやり残した事とか沢山あるっていうのに貴方のせいよ」


「ぐぐぐっ」


リツコの言葉の弾丸は強気で応対するミサトを容易く貫いた。

半ば愚痴にも聞こえるが、今回は何を言っても勝てそうに無い、とミサトは怒りを必死に耐える。

リツコはそんな親友の姿を見て嫌みったらしい溜め息をつくと、コンソールを操作してミサトに見るように即す。


「………思い出したわ」


おちゃらけムードだったミサトも、そのデータを見て真剣な顔を見せる。


「能力者の中でも最高クラスの力を持つと言われている一人『光皇』碇シンジ。

 光闇城のトップでもある彼の実力は本物である事は間違いない。

 異形を殺すハンターの仕事をして生計を立てているらしい……このぐらいしか分からないわ」


「この情報元は確かなの?」


「曲がりなりにも、三賢者の一人である赤木ナオコから貰っているデータだから信頼出来るわね」


「ナオコさんからの情報なら確かね……」


ミサトは親指の爪を咬みながらモニターを見続けていた。

何かを考えているらしく、モニターを見つめる瞳は真剣そのものである。


「そして来るかどうかは分からないけど『闇皇』にも手紙を送ってみたわ」


「『闇皇』って『光皇』の相棒って言われている人物よね?」


ミサトの問いにリツコは頷くとコーヒーの入っているカップを手に持つ。


「実は母さんが言うには友達らしいから駄目元でね。

 『闇皇』には一度会って見たかったから、丁度いいと思って」


「ふぅん、でも『闇皇』は滅多に姿を現さない事で有名だったから来ないかもね」


事実、『闇皇』の姿を見て帰ってきたものはいないとまでされている。

しかし、シンヤは別に隠れようとして隠れている訳ではない。

だがシンヤは仕事以外は光闇城を離れようとしないし、仕事の活動は夜が主なので目撃例が少ないだけだ。

人との関わりも少なくないが、それはハンターの上の上の人間以外は友達がいないという点もある。

よってシンヤは滅多に姿も見せない謎の人物とされているのだが、本人はその事実を知らない。


「あれ? 『光皇』って、碇本家の正統後継者なんでしょ?

 何でそんな子が汚染区域のトップクラスになってんの?」


「その辺の事情はよく知らないわ。ユイさんにでも直接聞いてみたら?」


日本の中で有名な家柄は4つ。



――魔法を主とする『碇』――



――魔術を主とする『惣流』――



――陰陽術を主とする『榊』――



――錬金術を主とする『霧島』――



どれもかなりの力を持つと言われており、政財界などにも多大な発言権を持っている。

今や退魔組織の柱とも言われている、四家『碇』の名を持つ正統後継者が汚染区域になど居るはずが無いのだ。

ミサトが疑問に思うのは当然とも言える。

因みに赤木一族の家格はまだまだ新興のものであり、四家の中に入る事はまだ先のようだ。


「ま、サードチルドレンが来たら聞いてみるわよ」


ミサトは残りのコーヒーを啜った。






















「大丈夫、彼なら最優先で保護しているわよ」



ブオォォォォォォォォッ・・・・・・



無人の市街地を走り抜けていく青いルノー。


「(遅れて来たくせに良くそんな事が言えるな〜

  もしかしてかなりの実力者なのかな? あ、それともただの馬鹿なのかも……)」


ミサトの何気ない言葉に対し、シンジは心の中で毒づく。

あの後の出来事はこうだ。

戦闘機が徐々に後退していき、終いには上空の魔方陣が書き終わろうとしていた。

シンジ達はその様子をボーっと見ていると、青いルノーがこちらに向かって猛スピードで来た。

やっと迎えが来たのかと、三人は迎えのミサトに挨拶をしようとしたら、半ば無理やり車に乗せられる始末。

別に遅れてきた事は怒っていないのだが、流石に説明無しで乗せられるのは気分が悪い。

シンジは助手席に、シンヤと祐二は後部座席でもみくちゃになりながらその場を急発進で離れ、走り始めて今に至る。



ピッ……



そんなシンジの心境を知らず、ミサトはルノーを運転しつつ横目でシンジの方を見る。


「始めまして、碇シンジ君。

 私の名前は葛城ミサト。ミサトって呼んで」


「判りました。葛城さん」


対してシンジは左手で頬をつき、ミサトの方に視線すら向けずに答えた。


「…………」


シンジの皮肉に、ミサトの額に青筋が浮かぶ。

しかし、通常なら怒られないだけマシだ。

何せ命の危険があったのだから、この場で一発殴られてもおかしくない状況下のはずだ。

ミサトもその事をわかっているらしく、何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「ごめんね…………遅れちゃって」


「遅れた事の謝罪は別に良い、リアルな怪獣映画が見れたんだし。

 それより、挨拶も無しに無理矢理車に押し込めたのには謝って欲しい」


後ろからシンヤの声が聞こえる。

無理矢理乗せられた時に頭をぶつけたのか、頭を擦りながら抗議する。

祐二も同じらしく、無言ながらもミサトの事を睨みつけている。


「し、仕方なかったじゃない。

 あのままあそこに居たら使徒に潰されてたかもしれなかったでしょ?」


「………俺達の事知らないのか?

 あの位の異形にやられてたら門番などやってられないぞ」


「ま、まさか貴方は……」


「おいおい、そっちが呼んどいてまさか知らないとでも言うんじゃないだろうな」


「………『闇皇』」


「当たり、本名はシンヤ。その二つ名の通り、能力『闇』を扱うことが出来る。

 神界、魔界の門番をしている光闇城の主の一人さ」






















<ネルフ本部 発令所>



「目標は依然健在。現在も第三新東京市に向かい、進行中」


「総力戦だ。厚木と入間も全部挙げろ!!」


「出し惜しみはなしだ!! なんとしても目標をつぶせ!!」


ネルフ本部発令所において、国連の三人の軍首脳の声が響く。

ディプスレイには、異形サキエルの姿が映し出されている。

サキエルに対し、大型のミサイルが打ち放たれたが、



ガシッ!



ディプスレイの中のサキエルはそれを容易く片手受け止め、バラバラに破壊してしまう。

ミサイルの爆発による被害は、明らかに皆無というのが素人目にも分かる。

サキエルの歩調はゆったりであるが確実に前に突き進んでおり、邪魔するものは排除していく習性らしい。

だがそれは確実ではなく、攻撃されているにも関わらず無視しているも多い。

これだけの爆炎をものともしないサキエルに驚愕の声が漏れる。


「何故だ!? 直撃のはずだ!!」


「やはりATフィールドか?」


「ああ、使徒に対し通常兵器では役に立たんよ」


軍首脳の後ろに陣取っている、二人の男―――碇ゲンドウと冬月コウゾウの会話が皮肉げに交わされた。

軍は基本的に国民を守るためであり、敵を殲滅するためでは無い。

上層部の連中はその事を忘れているのか、怒りに我を忘れていた。

そんな時、軍人達の前の電話が唐突に鳴った。


「……はっ! 了解しました! 予定通り発動いたします」


電話を取った軍人はそう答えて電話を切ると、忌々しげに告げた。


「諸君、アレを発動するらしい」


























ふと気になってバックミラーを見ると、異形の存在の周囲を飛び回っていた軍用機達が離れていくのが見えた。


「……ちょっとぉ、まさかこんな街中でN2爆雷を使う訳ぇ?!」


上空に描かれた魔法陣が発動し、サキエルを中心に光の奔流が渦を巻く。

魔力が具現化していき、今まさに爆発する瞬間を待ち構えていた。


「……祐二……」


「わかりました」


祐二の言葉と共に光の壁が車を包み込む。

それは、先程シンジ達を爆風から守った光の壁である。


「ATフィールド!?」


ミサトは車の外に張られている"心壁"を見て驚いた瞬間、光が瞬いた。

魔力によって圧縮された火種が、一気に爆発する。

増幅されたN2地雷の衝撃波は、辺りの木々などを薙ぎ倒しながら突き進んでくる。

しかし、車の中には襲撃は伝わらず、車の周りは荒地になっていた。


「"火力増幅魔方陣"

 その名の通り、火力を増幅する魔法。

 魔方陣を描く時間をリスクに発動するこの類の魔方陣は、威力を最大限に引き出せる長所も持っている。

 それと同時に、魔力を大量消費するがために死が付き纏う魔法とされている。

 禁忌技の一つともされているが、それに見合う威力は折り紙つき」


シンジは未だに赤く輝いているサキエルのいた場所を睨みつけながら、淡々と魔方陣の効果を話す。


「(それにしてもアレは何で死なない。

  "火力増幅魔方陣"も通常あんなに耐え切れるわけが無い。

  レベル2の亜種が何で………)」


おかしい、今まではこんな事はなったし、敵の力量を測り間違えたとは考えにくい。

シンジの頭の中は冷静な口調とは裏腹に混乱していた。

仮にも『光皇』と呼ばれている身。

汚染区域ではもっと強い異形と戦った事があるし、あんな敵に遅れをとる事は無い。

だが、シンジは今までの敵とは違う"何か"に疑問を感じていた。


「複数の人数で発動させられないからな、この類の魔法は」


「早く出発してください。急いでるんでしょ?」


シンジは天界の門番、自分の父親なら何か知っているかもしれないと考え、ミサトを即した。






















将官とゲンドウが、向かい合っている。


「これより、作戦の指揮権は君に移った。お手並みを拝見させて貰おう」


どこからか掛かってきた電話を置いた将官が、忌々しげに言葉を発する。

N2地雷は不発に終わり、"火力増幅魔方陣"をネルフの連中に書いてもらった。

にも関わらず、仕留められなかった事に怒りを感じているのだろう。


「了解です」


「碇ゲンドウ君。

 我々の所有兵器では、目標に対し効果が無いことは認めよう。………だが、君なら勝てるのかね?」


その言葉にゲンドウは、サングラスの位置を正しながら自信を持って言い放った。


「そのためのネルフです」


「………期待しているよ」


将官達は悔し紛れに言うと、本部から退場していった。


「目標は未だ変化無し」


「現在稼働迎撃システム7.5%」


「国連軍もお手上げか。どうするつもりだ?」


「初号機を起動させる」


冬月の言葉にゲンドウが自信を持って答える。

しかし、冬月はゲンドウの言葉に顔を顰める。


「初号機をか? だが、パイロットがいないぞ」


「問題ない。もうじき着く」


冬月の正論はゲンドウの言葉によってかき消される。

ゲンドウは手元のモニターを見つめながら、不敵に微笑んでいる。

そのモニターには、ミサトとシンジの姿が映し出されていた。






















『ゲートが閉まります、ご注意下さい』


アナウンスが響き、車ごと台車に乗せたカートレインがゆっくりと動き出した。


「……特務機関……なーぶ?」


「それはドイツ語でね、ネルフって読むのよ」


シンジの言葉に、ミサトが訂正する。


「ネルフですか」


「そう。国連直属の非公式組織よ」


「………人類を守る、大切な仕事ですか」


「皮肉?」


「いや、それならばなぜ非公開組織なのかな?って思って」


ミサトはシンジの問いには答えなかった。

カートレインはやがてトンネルを抜け、視界が開ける。

窓から見えるのは地下とは思えないほど広大で、そして地上と変わらない明るい場所であった。


「……ジオフロント」


「これがあたし達のネルフ本部。世界再建の要、人類の砦になるところよ」


ミサトが誇らしく言うのも無理も無いほど綺麗であるジオフロント。

しかし、ここは天界の門の近くである事は間違い無い。


「(ここが天界の門への入り口ですか。

  確かに汚染区域外の人類にとっては、これが人類の砦と言うんでしょうね)」


祐二はその景色を見ながら心の中で毒づいていた。

それと同時に彼らは何も分かっていない、と改めて認識させられる言葉でもあった。

今の時代、年功序列は古いシステムに過ぎない。

力の強い者が上に立ち、上の者は常に前線で戦わなければならない、というのが光闇城での決まりである。

他の汚染区域でも大抵はそうだ。

理由は簡単、戦わなければ死ぬしかないからだ。

しかし、此処はまだ古いシステムに頼っている雰囲気がある。

祐二から見れば、到底此処が人類最後の砦とは思えなかった。


「(シンジさんは兎も角、シンヤさんは興味無くしたら帰るだろうな〜)」


自分の上司である性格を、正確に把握している祐二であった。






















「で、何時になったら目的の場所に着くんですか?」


後ろから問い掛けられるシンジの言葉に、ミサトは返事ができなかった。

カートレインから降り、ミサトが先頭に立ち施設内を歩いているのだが、未だ目的の場所にたどり着けていない。

理由はミサトが自分の職場である、この施設内で迷子になっているからに他ならない。

シンジに対し何か言い返したいが、自分が迷子になっていることに変わりないので反論すら出来ないでいるのだ。

情けない話である。


「もしかして迷ったとか……」


「そ、そんなわけないでしょ!」


「誰かに助けを呼ぶとか……」


「そうね! システムは使うためにあるんだから!!」


「「「(その反応、迷った言っても良いんですけど………)」」」


三人の思いは満場一致で『葛城ミサトは頭のネジが五本ぐらい飛んでいる』と再認識した。


























『技術部長、赤木リツコ博士、赤木リツコ博士。至急、作戦部長、葛城ミサト一尉までご連絡下さい』


「……呆れた。また迷ったのね」


髪を金髪に染めた女性がプールから上がり、ウエットスーツを脱ぎながら呟いた。

シンジ達の思いは、同じく金髪の女性も同じらしい。

もっとも、この女性の場合は『葛城ミサトは頭の中身が殆ど無い』と思っているのだが………

上着代わりに白衣を羽織り、二匹の猫を引き連れながらミサトを迎えにいった。


















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